【書評】「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」を読んだ感想

一発目は「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」です。この本の感想を一言で表せば衝撃です。

推理小説などの売り文句で「衝撃のラスト」などの文言をよく目にしますが、何冊か読んでみたものの衝撃を受けたことはありません。しかし、「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」の 3 章に載っているデータは本当に衝撃的でした。僕は教育業界で働いて 10 年以上になります。「この子はなんで数学ができないんだろう?」と思ってたことの答の一端がこの本で見つかったような気がします。

この本では、大きく分けて 2 つのことが書かれています。

・AI とはなんなのか。AI が得意なこと不得意なこと

子ども達の読解力の低下への警鐘(こちらが衝撃的でした)

AI とはなんなのか。AI が得意なこと不得意なこと

AI とはなにか

近年、AI という言葉をよく耳にします。また、本屋に行けば AI に関する書籍もたくさんあります。個人的には 、2017 年に将棋の佐藤天彦名人がAI(ポナンザ)に負けたことが強く印象に残っています。

皆さんは AI ってなんだと思いますか?大量のデータを入力すれば勝手に分析してくれて、こちらが考えてもいなかった情報を出力してくれるすごいもの、などと考えてしまっていませんか?僕はこのような間違えをしていました(笑)AI はあくまでコンピュータのソフトです。そして、コンピュータはただの計算機です。なので、数学で出来る以上のことはできません

AI が得意なこと

数学で出来るものや、ルールがきっちり決まっていて数学を使って表現出来るものに関しては得意です。例えば、先ほど例にあげた将棋も、数学で表現可能です。将棋の中継を見ていると評価値なるものが表示されることがあります。これはおそらく、その局面から先をコンピュータ同士で対戦させ、どちらが勝つ確率が高いのかを数値として表しているのでしょう。

また、レントゲンや CT スキャンの画像を見て、ガンらしきものが写っているかどうかの判断も出来るようです。人間にはミスはありますが、機械にはありません。なので、非常に大切な技術です。ただし、これにはサンプルデータ(教師データというらしいです、詳しくは本を読んで下さい)が必要です。ここは非常に重要です。将棋の例とは少し違います。なぜなら、ルールというものが存在しないからです。この影があったらガンである、というルールなんてものはないのです。

つまり、画像診断を AI にさせるためには、こういう画像は危険で、こういうの画像は危険じゃない、というのを一つ一つ教えていかないといけないのです(教えて、というより数値化して、の方が正しいのかもしれません)。数値化や計算式を作るのは人間です。たくさんの画像を見せたら AI が勝手にガンを学習してくれるわけではありません。AI はそんなことは出来ません、計算機なので、あくまでルールに則った数値計算しか出来ません。

AI が不得意なこと

AI が出来ないことは以下の2つです。

・意味を理解すること

・推論すること

このうちの意味を理解しない、ということについて取り上げます。推論に関しては本を読んで下さい。例えば、google翻訳を例にあげてみます。ここで「私は佐藤と広島に行った」を翻訳させてみましょう。

I went to Sato and Hiroshima

となります。佐藤という地名があるかどうかは置いておいて、普通はこんな解釈はしません。佐藤という知り合いがいるのだと解釈します。これが AI の限界です。AI は意味を理解出来ないのです。なぜなら、数学では意味を扱えないからです。

音声認識の CM で「この近くでおいしいパン屋さん」と話しかけると紹介してくれる、というものを見たことがあります。これは喋ったことの意味を理解しているわけではありません。単に

「近く」→ 位置情報を取得

「パン屋」→ 位置情報をもとにパン屋をGoogle検索

これをやっているだけです。意味を理解できないということは、AI が人間を超える知能を持つことはありえません。そんなわけでシンギュラリティは来ないと著者の新井先生はおっしゃっています。新井先生がおっしゃっている、というよりは僕はそう理解しました、の方が適切ですね。

子ども達の読解力の低下への警鐘

AI は意味を理解出来ない、と書きました。しかし、どうやら中学生や高校生の大部分が教科書の意味を理解できていないということがわかってきました。いくつか問題を抜粋します(著作権を侵害していないとは思いますが…)。皆さんも 3 分ずつくらい考えてみて下さい。

問題1:幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。

上記の文が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから答えなさい。

1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。

 

問題2:Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさない。

Alexandraの愛称は(  )である。

(1)Alex (2)Alexander (3)男性 (4)女性

答は順に、異なる、(1) です。中高生の正答率は以下です。

問題1の中学生の正答率 57 % 、高校生 71 %

問題2の中学生の正答率 38 % 、高校生 65 %

です。例えば。1000人の中学生を集めたら、問題文1の文章を正確に理解できているのが 570 人で、残りの 430 人は意味を理解していないと考えたら怖くありませんか?また、高校生とは進学率がほぼ 100% の高校に通う生徒のことです。

数学を担当する者として、本当に衝撃だったのが、次の問題です。

問題:次の文の内容を表す図として適当なものを、①~④のうちからすべて選べ(図は省略)。

原点 O と点 (1 , 1) を通る円が、x 軸と接している。

この問題に対する中学生の正答率 19 % 、高校生 32 % でした。授業が成り立たないレベルの正答率です。数学がわからない、できないと言う生徒のほとんどが、もしかしたら問題文の意味がわかっていないのかもしれません。医学部を狙っている生徒と接していても、問題文を正確に読めない子は本当に多い、という実感があります。数学の問題文は全然長くないのですが、それでも読み間違いをします。例えば、久留米大学 2015 の大問 6. に次のような問題があります。

n回サイコロを振り、1 回でも 6 が出ると 0 点、1 回だけ 6 以外の偶数が出ると 2n 点、それ以外の場合は n 点とする試行を行う。

この問題文をほとんどの人が読み間違えます。「1 回でも 6 が出ると 0 点」を「1 回だけ 6 が出ると 0 点」と読んでしまうのです。この読み間違えに対して、「問題文はよく読もう」とアドバイスするしかないのですが、もしかしたら何度読んでもわからないのかもしれません。この文章を読み間違った人は、毎回のように読み間違い(?)があります。数学で読み間違え、物理の問題文を理解できず、化学で読み間違え…。

生物を選択している人はもっと悲惨です。なぜなら、生物の問題文は長いことが多いからです。特に考察問題では、長い文章を読んで実験内容を理解し、推論するという作業が求められます。読解力が低い生徒が出来るものではありません。生物を選択するのはもともと学力がそこまで高くない人が多いです。もし、その原因が読解力不足だとすると、生物を選んでしまったら大変なことになるのは明らかです。

読解力が低いことの原因はよくわかりません。個人的には、効率を求め過ぎたことが要因としてあるのかなと思っています。

まとめ

「まとめ」を作ってみましたが、こういう部分しか読まないことが読解力の低下に繋がるのではないでしょうか。文章から大切なこと、重要なことだけを抜き出して読むことは重要なことだと思います。しかし、それは読解力がついてからの話だと思います。読解力がない人がそれをやってしまうから、読解力が低いままなのかもしれません。本書の中にも「AI 読み」なる単語が出てきます。

この本は子を持つ親にとっては必読でしょう。今の子供が大人になって仕事をするときに AI 以下の読解力では仕事がなくなってしまいます。小さいうちから、読解力をつけるためにはどうしたら良いかを考える必要があります。そして、本書には「15 歳くらいまでに読解力がほぼ確定されてしまう」といった記述もあります。

もちろん、読解力が不要な仕事もあります。それは介護士や保育士などです。今後、介護や保育士などの AI では絶対に代替できない職業の地位は上がるだろうと新井先生は予測しています。保育園不足が叫ばれる中、これはとても有難い話ですね。

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